グリーグ;劇音楽ペールギュント
1843年ノルウェーのベルゲンにイギリス領事をつとめた父のもと生まれたグリーグは幼少よりピアノに親しみ音楽的才能が開花。15歳でライプツィッヒ音楽院に留学します。卒業後はピアニストおよび作曲家として故郷ベルゲンやデンマークのコペンハーゲンで音楽活動を旺盛に展開し、1867年には故国の首都オスロに居を移し、フィルハーモニー協会の指揮者に就任。作曲創作も旺盛で、その作風はノルウェー民族音楽に着想を経た独特のもので、国民学派の音楽家として北欧を代表する音楽家として名声を博していくのです。
彼の代表作といえる「ペールギュント」はグリーグ31歳の年、イプセンから彼の詩劇「ペールギュント」上演のために劇音楽作曲の依頼を受けたことによります。当初グリーグは自身の音楽が抒情的かつ小品向きであることから、断ろうともしましたが、その報酬と民族的な題材への興味から作曲を引き受けました。結局作曲に2年かかるなど難航した末に1875年完成、翌年オスロの王立劇場で初演され、成功をおさめました。その後グリーグはそれぞれ4曲を選び、いずれも管弦楽のみによる第1組曲、と第2組曲を編んでいます。(今日良く演奏されているものです)
お話はノルウェーの民話に登場するペールギュント(以後ペール)を主人公に彼の波乱万丈の冒険譚が描かれています。 豪農の息子ペールは、父の死後、母オーゼと暮らしています。早々に父の資産を食いつぶすも働かず夢を追う青年。ある時村の結婚式に乱入して花嫁のイングリッドを奪い山に連れ去るがすぐに飽き、山の魔王の宮殿に侵入、魔物に迫られ、魔王の娘に脅され、ほうほうのていで心配していた母のもとに逃げ帰ります。しかし母が亡くなると恋人のソルヴェイグをすててアラビアでは奴隷商売で富を築き、アラブの女に誘惑されます。その後アメリカを経て、年を経るに故郷への思いが募りソルヴェイグの歌に誘わるように帰路につきます。その途上嵐にあい船は遭難。全財産を失うも最後はソルヴェイグに抱かれつつ、彼女の子守歌とともに、永遠の眠りにつくのでした。
1 前奏曲:冒頭の主題が華やかな村の婚礼の場面。やがて「ソルヴェイグの歌」が木管によって思いをこめて歌われると、対にはやんちゃなペールがヴィオラ奏でる舞曲によって登場。つかの間ソルヴェイグと対話します。そして再び婚礼の幕が開きます。
2 イングリッドの嘆き:婚礼の主題が今度は嘆きの主題として形をかえて登場。続いてイングリッドの悲しみが弦楽によって痛切に奏でられます。
3 山の魔王の宮殿にて:ファゴットに先導されたグロテスクな行進曲風の楽想が徐々に激しさを増しつつオーケストラ全体に広がります。魔物達がペールに迫ってくる中、魔王の娘婿になることを約束し難を逃れます。
4 オーゼの死:魔物達を振り切ったペールの冒険談を聞いた老母オーゼが死を迎えます。弦楽によって、その悲しみが奏でられます。
5 朝の気分:今度はアフリカに渡ったペールがモロッコの砂漠で迎えた朝。新しい人生を切り開く事を決意します。フルートの印象的な主題、清々しい気分が喚起されます。
6 アニトラの踊り:アラビア部族の酋長の娘アニトラがペールを誘惑しようと踊りを披露します。弦楽のみによる魅惑的な音楽。
7 アラビアの踊り:ペールがアラビアの部族に預言者として入り込み歓迎をうけています。オーケストラ全体によるエキゾティックな舞曲。中間部はアニトラが踊り、歌います。
8 ソルヴェイグの歌:ペールが放浪の地でうつつを抜かしている間。ソルヴェイグは一人ノルウェーの郷里でペールを待っています。変わらぬペールへの愛を切々と歌うのです。
「ソルヴェイグの歌」
冬は去り、春も往き、夏は過ぎ、年月は流れいく、
でも、あなたはわたしの許に帰ってくる
あなたはわたしのもの
約束通り、わたしはあなただけのもの
あなたがまだ太陽を見ているのなら、
神様はあなたをたすけてくれる
あなたが神様の足下にひざまずけば、神様はあなたに恩寵を授ける
あなたが帰ってくるまで、わたしは待っているでも、
あなたが天に留まるというのなら、そこであなたと逢いましょう
9 ペールギュントの帰郷:アフリカからアメリカにわたり富を得たペールが望郷の思いをつのらせ海路ノルウェーに向かいますが、嵐に襲われて船は難破。身一つで故国の海岸にたどり着きます。荒れる海、吹きすさぶ嵐の中船が進んでいく描写が見事です。
10 ソルヴェイグの子守歌:波乱万丈な人生を送ったペールの最後は子守歌を歌うソルヴェイグの膝の上で閉じられます。愛情に満ちたソルヴェイグの美しい子守唄。
「ソルヴェイグの子守歌」
わたしの愛しい子よ、眠れ!
わたしがお前を寝かしつけて、お前を守ってあげる
わたしの膝の上で静かに歌を聴いている
この子はいつもわたしと遊んでいた
母の胸に行きたいのね
神様、いつまでもこの子に祝福があることを!
いつまでもわたしの胸で憩わせてあげよう
今は眠っていたいのね、わたしの愛しい子よ 眠れ!