グスタフ・マーラー:交響曲第1番 ニ長調
ユダヤ人にしてボヘミア生まれのマーラーは20代前半から歌劇場指揮者としてキャリアを積みながら、オーケストラ音楽の新たな地平を開こうと、作曲に取り組み始めました。当初は2部5楽章からなる交響詩として着想され、第一部「青春、花、果実、そして苦悩」(1.2.3楽章)。第二部「人間喜劇」(4.5楽章)と標題が付けられていました。演奏技法や表現に様々なアイデアを試み、また自然への共感や自身の恋愛体験を曲に反映させるなど、若きマーラーの音楽への情熱全てを注いで作曲されています。完成翌年の1889年に晴れてブダペスト王立歌劇場で自身の手により初演されました。その後演奏会を重ねる中で、愛読書であったジャン・パウルの教養小説《巨人》からとって呼称をつけたものの、かえって曲の理解を妨げるとして1896年のベルリン演奏会ではこれを削除、かつ2楽章がカットされ、現在一般的に演奏される4楽章構成の交響曲として決定された経緯があります。第1楽章は春の森の音楽。「自然音のように」と指示された序奏では弦楽器フラジオレット奏法の中、管楽器がカッコーを奏でます。チェロによる第1主題は彼の歌曲「さすらう若人の歌」からの転用です。かくして、春の陽光の中、青年が自然を謳歌する姿が奥行きある情感をもって表現されて、最後は強烈に盛り上がります。第2楽章は農民舞曲レントラー風の音楽です。力強いリズムと響きが目くるめく展開をみせます。中間部は一転、優しいワルツです。第3楽章は森の中の葬送行進曲です。民謡「フレールジャック」の主題を短調にして、コントラバスより奏され、カノン風に展開していきます。中間部はヴァイオリンが夢の中で歌うかのような旋律を奏でます。第4楽章はすさまじいオーケストラの咆哮で開始されます。第1主題が勇壮にかつ激動的に音楽が進行し、続いてヴァイオリンによる叙情的な第2主題が奏されます。この二つの主題を中心にその後は起伏に富んだ展開を繰り広げます。第1楽章を回想した後、圧倒的高揚感をもって全曲を終えます