チャイコフスキー交響曲第5番

チャイコフスキー: 交響曲第5番ホ短調 作品64 

1888年5月に西欧演奏旅行からロシアに戻ったチャイコフスキーは新たな作曲段階を迎えます。その結実が「運命交響曲」と評されるこの第5番交響曲です。それはまさにロシア、ロマンの美しい憂愁美と、西欧交響曲の構成美が結合した音楽となっています。主題である運命動機が全楽章に循環して登場するなか、その運命との格闘、憧れと絶望といった、感情表現がなされつつ、生きることへの応援歌が奏でられていく音楽です。

第1楽章はクラリネットによる「運命の動機」から始まります。この旋律は形を変えつつ全曲を通して現れる基本動機となります、やがて木管が動きのある第1主題を奏し、弦楽器に引き継がれた後に、ひとつのクライマックスを迎えます。弦と管楽器の対話の後、ピチカートをきっかけにして弦楽器が安らぎ感のある第2主題を歌い、オーケストレーションが変化しつつ第2のクライマックスを迎えます。展開部では主題の変形が繰り返され、再現部に入ります。コーダで盛り上がりを見せた後、低弦の暗く深い響きで終えます。

第2楽章は中低弦に導かれて憧れに満ちた美しい旋律がホルンによって演奏されます。次にはオーボエにより副主題が素朴な明るさをもって奏でられます。歌がチェロに引き継がれた後は弦楽器のカンタービレで曲が大きく膨らみます。中間部はクラリネットのノスタルジックなメロディに始まり、曲が膨張と収縮を繰り返しつつ発展、やがて運命の動機が現れます。再現部で再度主題が美しく奏されオーケストラ全体でクライマックスを築いた後、静かに終えます。

第3楽章は交響曲としては珍しいワルツが主題です。しかし、このワルツは一見華やかですが、どこか寂しげでもあります。中間部は軽やかなスケルツォの性格で弦と木管楽器で対話されていきます。やがてワルツが回帰してきた後、コーダでは「運命の動機」がクラリネットとファゴットによって奏され、最終楽章への予感を抱かせつつ終えます。

第4楽章、運命に対する勝利の歌でしょうか?「運命の動機」が堂々と演奏されます。一度曲が収まった直後にティンパニのクレッシェンドに導かれて強烈な第1主題が現れます。弦によるのびやかなフレーズの後、木管楽器による第2主題が奏され、低弦がリズムで推進し曲が躍動します。一旦は収まるものの、再現部が力強く奏されます。コーダでは「運命の動機」が高らかに演奏され前へ前へと進みます。音楽は高揚の一途をたどり、人間への信頼、勝利、喜びが歌われます。