リヒャルト・シュトラウス 「ツァラトュストラは かく語りき」 作品30より 「日の出」

19世紀末ニーチェによりもたらされた一大思想潮流があります。それはヨーロッパ文化を席捲し、以後の思想、哲学のみならず文化、芸術にも多大な影響がもたらされました。音楽界でいえば、このリヒャルト・シュトラウス、そしてグスタフ・マーラーなどが筆頭としてあげられます。シュトラウスは1880年代にミュンヘン大学で哲学の講義を受けるなどしており、出版されたばかりの「ツァラトュストラはかく語りき」(1885年発表)を読み、強い影響を受けて作曲を決意。1896年6ヶ月余りの創作を経て11月に、フランクフルトで彼自身の指揮により初演されました。

 ニーチェ思想の集大成というべき書物が「ツァラトュストラはかく語りき」です。ニーチェはこの書で、ゾロアスター開祖「ツァラトュストラ」の姿を借りて彼の哲学思想の核となる「超人」ならびに「永劫回帰」の思想を比喩や逸話と通して説きます。{ 超人は「権力への意志」の体現者であり、未来の価値を築くものである。そして絶えず強大になろうとする。万物は超人のこの不断の努力により生命を得て、その存在は止まることなく回帰していく }というのがおよその内容です。

{その序説}
ツァラトュストラは30歳の時、ふるさとの湖を離れて、峰々の奥に分け入った。ここで彼は孤高なる精神を楽しみ、10年間飽くことはなかった。しかしある朝、彼の心は変わった。ツァラトュストラは日の出とともに起き、太陽を迎えて立ち、このように太陽に語りかけた。「偉大なる天体よ!もしあなたの光を浴びる者がいなかったら、あなたは果たして幸福だろうか!、、、、

果たしてこの序説部分が演奏する「日の出」というところにあたります。冒頭オルガンと低音に導かれてトランペットが吹く主題(ドー・ソー・ドー)は「自然のテーマ」と呼ばれこの曲全体を統括します。オーケストラ全体が呼応し頂点へ、それは自然:宇宙の超越的な神秘と謎が提示されています。(なおこの部分がスタンリー・キューブリック監督による映画「2001年宇宙の旅」冒頭に使われたことにより一躍世界的に知られることにもなりました。)

シュトラウスは原著より八つの章を選び作曲し、以後展開していきます。彼は「書物の哲学的内容を音楽にしたというのではなくて、ニーチェの天才を称え、音楽という手段を通して、人類の発展を、超人の観念を表現したものです。」と記しています。